遠雷

地の果てにて

2018/09/03 1日目(中)  修学旅行より真面目に修学した話

突然だが、皆さんは「ゴールデンカムイ」という作品をご存知だろうか。
10月8日からアニメ2期が始まってるので、名前だけは聞いた事ある人多いと思う。
Twitterの煽りリプ画像としてよく使われるこの↓1コマの元ネタはゴールデンカムイなんだよね。
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あとはイラストのネタとしてよく見かけるのがこの辺りか。
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ネタにされるだけあって、1コマだけでもう面白いし、実際読むとめちゃくちゃ笑えるシーンなんだよね

んで、これどういう漫画なの?といいますと。
明治後期の開拓されつつある北海道を舞台にアイヌの金塊を巡って、最強の第7師団や網走監獄を脱走した凶悪な囚人達、元新撰組陣営など、ヤベー奴らを相手に日露戦争からの帰還兵・杉元佐一とアイヌの少女・アシリパが手を組み、北の大地を駆け回る……というとっても浪漫溢れるお話。
北海道で繰り広げられる西部劇、これだけでも相当ワクワクするんだけど、煽り画像にもなるような個性の強すぎる魅力的な登場人物や、独特のギャグシーンが絶妙なバランスで、これが面白いのなんのって。
ただこれだけだと、明治北海道という名前だけ借りた異世界ファンタジー架空戦記じゃないの?という疑問を持つ方もおられるだろう。おられるだろう(威圧)
ところがどっこい。ゴールデンカムイのぶっ飛んだ面白さがきちんと地に足が着いたものになっているのは「リアリティ」にあるのだっ!!
作者・野田サトル先生の綿密な時代考証アイヌ文化の文献調査・取材により、当時の生活風俗が細かい部分までしっかり描写されてるんだよね。また、メインとなる登場人物の多くは実在した変人で、そこに気づいた読者はついニマニマしちゃうってわけ。楽しみ方の切り口が非常に幅広い作品、まさに和風闇鍋ウエスタン!


唐突にゴールデンカムイ語りしたけど、なぜかと言うとね、この日に立ち寄った「博物館 網走監獄」が作中でとても重要な場所であるから。
ここに立ち寄った理由がゴールデンカムイかと言われると、全く影響なかった訳では無いけど、精々1割くらい。元々聖地巡礼に興味ある方じゃないし。
でも、実際に足を踏み入れてわかった。野田先生がどれだけ綿密に取材をして、元ネタとなる舞台を尊重しつつ、あんなにぶっ飛んで面白い漫画を描いてるのかが。
脱帽した。舐めてた。今まで「アニメの聖地巡礼?言うてアレ、背景とか地名を借りて実際はてきとーな田舎ならどこでもええやんけ、地方もそれに便乗して聖地巡礼してくれるオタクが金落としてくれれば両者にwin-winだし?」って斜に構えてた。んなもんじゃねぇ。何がなんでも「明治の北海道」が舞台じゃないと描けない全てを描き切ってやろう、そんな気概を強く感じた次第。
お見事ですサトルカムイ、ずっとあなたについていきます……

まぁつまり、ゴールデンカムイ面白いから、月島軍曹の過去編が収録されてる15巻までは騙されたと思って読んでみようね!!
Amazonのリンクも貼っといてやるぜ!


さてね(仕切り直しC)

宿泊地は「ホテル網走湖荘」。地元民からは湖荘って呼ばれてるみたい。その名の通り網走湖のほとりに佇む老舗旅館。
(多分)1番安い部屋に泊まったんで私の部屋からは山と踏切しか見えませんでしたが!w

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飛行機予約前に宿を確保したからチェックイン時刻が読めなくて、結果的に予定より何時間か早く到着。
スーツケースだけでも預かってもらえればな、って思ってたのに、チェックイン手続きしてすぐに部屋に通してもらえたから驚き。ありがとうございますやでほんま。

部屋は洋室で、ベッドが2つありましたとさ。
…………………………^^



地図通り、網走監獄は近くにあった。
網走湖沿いの道は曇り空から差し込む夕焼けを映し始めて、運転せず見る余裕があればさぞ綺麗なんだろうなって思った。

ちなみに近くに網走刑務所もあるけど、これは普通に現在進行形で受刑者がお勤めを果たしてる普通の刑務所。間違ってカーナビに入れて自首ムーブしかけたまずいまz別に何も自首することなんてしてねーよ!!!!!!


網走監獄は、明治時代、北海道開拓を進めるために全国から囚人をかき集めて設置された、北海道開拓史において切っても切り離せない存在。
凶悪な囚人達を効率よく見張り、脱獄させない為のあらゆる工夫が施された独特の監獄が有名。
それでも脱獄した猛者が実在するんだから凄い。
元々の過酷な気候に加え、劣悪な環境下でシベリア抑留レベルの労働させられたから死人が出まくった……
これが私の網走監獄の事前知識。

いざ突撃!
入口近くの掲示板に、早速ゴールデンカムイのキャンペーンポスターがお出迎え。
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スタンプラリーなんてあるんだ。
コンプリートの為には杉元達みたいに北海道を縦横無尽に旅しなきゃならないんすねえ。
馬や徒歩でサバイバルしながらの彼らよりはうんと楽だろうけど。

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右の門番っぽいオッサン、これ作り物なんだよね。
顔のリアルさといい、質感といい、大きさといい、モノホンにしか見えなくて、気づいた時びっくりした。
館内にもこのクオリティの人形がゴロゴロいるから、暗い独房に囚人人形がいた時は軽く悲鳴出たよね。

中に入って早速目に入ったのが土産物コーナー。
ゴールデンカムイ要素でいっぱいw

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杉元とアシリパさんのパネル、サトルカムイの白石色紙、網走監獄仕様のポスター……
コラボ土産まであるとは思わなんだ。食べていいオソマ地味にツボなので買いました。アシリパさんのオソマ顔芸好きすぎる

いやまーね?ゴールデンカムイ好きだからいいんですけどね?
自衛隊が美少女に銃持たせた萌え絵に媚びてるのとか、少しぱっとしないけどいい所って感じの観光地がヲタク=ポスターまみれになってるのを見ると、メリットは充分理解してても萎えるタイプのオタクなんですよ。(唐突な自己紹介)
私の地元とか、赤塚不二夫が育った土地ってだけでまだおそ松さんバスが走ってて泣けますよ。おそ松さん1期滅茶苦茶面白くて好きだし円盤まだ持ってるけどさ。赤塚不二夫あんなに新潟disってたのに、それでも縋るって恥ずかしくないの?(唐突な地元dis)

やっぱり歴史的に重要な場所として知名度が高くても、所詮は辺鄙な地の果てにある田舎。
観光での収入の割合も馬鹿にならないだろうし、オタクに媚びていかないとやっていけないんすねぇ~~(でかい態度)

すいませんでした(土下座)

土産物コーナーと同じ空間にあった、網走監獄の歴史をまとめてある碑文に目を通してびっくりしたよね。
犬童典獄って実在の人物だったんかい!名前とキャラデザ遊びすぎじゃね?とか思ってたけどそっくりやんけ!!でも写真は漫画より明るい雰囲気だ!!
白石のモデルの白鳥由栄は偶然知ってたけど、もしかしてあの漫画、私の想像以上に綿密な取材により構成されてるのでは……?
そんな畏怖が芽生え始める中、博物館内の説明を食い入るように読みながら、歩き回ったのでした。

舐めてた。すっげぇ歴史の勉強になった。初めて知ることばかりだった。
新しい分野の歴史に触れて心が震えたのは、中二の時にヘタリア経由で第二次世界大戦の欧州の複雑な戦線沼に落ちた時と、高校生の時にあの最強米軍に敗北を味わせたベトナム戦争がきっかけでアジア近代史沼に落ちた時以来だ。我ながら典型的か


網走監獄は、実際に使われていた監獄を補強しつつ、限りなく当時のまま博物館として公開されている。
前述の通り、この監獄は蝦夷地開拓を目的に全国から囚人を集めて設置したいくつかの監獄のうちの1つで、その中でもかなり大規模なものだった。
その囚人の数、当時の網走の住民約600人に対して、約1200人。
住民の2倍もの数を収容するにあたって、効率的に監視可能かつ脱獄困難な工夫が施された。
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囚人と看守達は、北海道方々を繋ぐ幹線道路の開拓や、農地開墾に尽力した。

現地に赴けば分かるのだが、特にここ、網走や後に行くことになる知床は、間違いなく田舎なのだが「ただ開発が進んでいないだけ」の一般的な田舎というよりは、「自然があまりにも驚異的な規模なので、人間側が妥協して住める場所に住み、道路を作れる所に道路を通し、野生動物とは距離を保ちつつ共存している」という印象を強く受ける土地だ。
蝦夷地が日本に併合されてから150年近く経っているのにこの程度の(失礼)開発レベルだということと、知床・網走共に世界的に保護区指定されている事を踏まえると、あながちその認識は間違っていないんじゃないかと思う。

ましてや150年前なんて、重機どころか農具装備も今よりパッとしない……パッとしないわ(展示品を見ながら)
例のオレンジの囚人服1枚で、今よりも自然の脅威があって、ヒグマやエゾシカが平気で出てくるような所を開拓する……
考えただけでゾッとする。

実際、幹線道路の開拓にあたって、約5メートルに1人の割合で囚人と看守が命を落としていたらしい。そりゃそうだ。作業は囚人にやらせるにしても、見張ってる看守だって無事じゃいられない。
死因としては収容環境の厳しさ・劣悪さも影響しているが、大半は開拓にあたり、自然に負けたパターンだ。
彼らが開拓した道は、今でも北海道各地を繋ぐ大事な道路となっている。
この先私が旅をするにあたって、囚人達が命をかけた道を走り回ることになる。翌日以降、私は彼らの仕事の偉大さを嫌という程感じることになるのだった。

館内で当時の開拓の様子を再現した映像が見れた。
吹雪の中、暗くなる山中で、死にそうな囚人に看守が「網走に帰るんだろ!死んじゃダメだ!」と必死に声をかけるも、最後には看守も命を落としてしまう。
そこにはドラマでよく見る高圧的な看守とそれに反発するような囚人の姿はなく、まるで運命を共にした同僚のようだった……


また、同時に農地開墾も進み、採れた作物は地元の一般人に販売していた。流石に農家には気遣って、少し離れたところで売ってたみたいだけど。
主婦の皆様からは安くて美味しいと評判だったそう。

……なんというか、網走監獄やここに収容された囚人の印象が変わるよね。
確かに網走監獄は過酷で、1度収容されたら死刑執行前に死ぬのを覚悟しなきゃ行けないところだと思う。環境は悪いし、お勤めは過酷。
そもそも収容されてる地点で、今とは法的な基準が違うにしても、全員ろくなことしてないんだよね。
でも、その代償の社会貢献活動ならば、これは社会的どころか歴史的貢献を果たしてるわけで。
経緯はなんにせよ、彼らが命を投げ捨ててくれなければ、北海道の発展はなかったし、私がこうやって東京からはるばる赴くこともできなかった。
なんて偉大なる名もなき囚人と看守達。
いや、北海道というところは、囚人達以外にも、きっとこういう名もなき人々の命で出来ているんだなぁと、そう思うと胸が熱くなって涙が出るよね

それにさ、少しずれるけど、アイヌの人達って、囚人が何人も死んだような過酷な土地を狩猟や知恵で生き延びてきたんでしょ?
政治的目的があったにしても、とても土人と言って馬鹿にできるような人達じゃないと思うのだが・・・
タフで賢くないと生き延びていけないはずだもの・・・
アイヌってすげえなぁって震えてた。

ありがとう網走監獄!!北海道、バッチリ堪能してやるぜ!!
そして、サトルカムイに敬意を!!網走監獄サイドがこんなにゴールデンカムイだらけな理由がよく分かったぜ!!これだけきちんとリスペクトして漫画に反映されてれば、そりゃ感謝の祭り上げしたくなるわ!!

帰りに食べていいオソマの他に網走監獄限定激辛カレー買って帰った。
食べていいオソマ……つまり山椒味噌なんだけど、一人暮らしじゃ微妙に持て余すかもだし、野菜スティックに味噌つけて食べるのが大好きな妹に郵送で送り付けました。
ここ網走監獄の他には女満別空港でしか見かけなかったので、興味ある人は見かけたら即買うのがおすすめです。


前の記事で(後)に続くって言ったけど、これ(中)じゃん?
1日目もう少し続くんだ。すまんなー。よかったら、次もよろしくね。